第9章 騎士達の凱旋
「……ひとつ心残りがある」
互いに銃口を向けあいながらも、織田作が呟いた。
「友人にさよならを言っていない。
この世界でずっと、"ただの友人"でいてくれた男と、その男が愛した彼女と……な。
……まあ、色々だ。
友人の男はこの世界に退屈し、ずっと死を待っていた」
謳うように織田作が微笑みながら言う。
「その男も乃公と同じように、死を求めていたのか?」
「いいや、違うと思う」
夕日に染まる舞踏室が、黄金に輝いている。
風化した窓からのその光が、真っ直ぐに二人の戦士を照らした。
「最初、お前と太宰は似ていると思った。
自分の命に価値を見ていない、死を望んで暴力と闘争のなかに飛び込んでゆく。
だが、違ったんだ」
脳裏に浮かぶあの友人は、今にも泣きそうな子供の顔をしていた。
何かを渇望し、求め、愛を乞う。
あの暗殺者の彼女であれば、与えられる何かかもしれない。
「あいつはあまりにも頭の切れる、ただの子供だ。
暗闇の中で、俺達が見ている世界よりも
はるかに何もない虚無の世界で、ひとり取り残された泣き叫ぶ子供だ」
だからいつも孤独だった。
俺と安吾がそんな太宰のそばにいられたのは、
太宰の周囲を取り囲む孤独を理解し、そばに居ながらも
決してその中に踏み入らなかったから––––。
「だが、今になって、その孤独に土足で踏み込まなかったことを
少し後悔してしまってな」
あの暗殺者は、太宰の求めるものを理解しながらも、与えることをしなかったから。
あの花園にいた男は、彼の人間性は理解していたけれど、
その孤独などと言うものに全く移入できないほど心が壊れていたから。
後者のあいつの場合は、その『異能力』のせいもあるのだろう。
俺とジイドの向けあった銃口から、弾丸が発射された。
互いの心臓に、銀の弾が突き刺さる。
そこで"特異点"は消え失せ、永遠の歯車は廻りだす。
俺とジイドは、同じタイミングで、同じ姿勢で仰向きに倒れた。
歓談室の方から、爆発の熱と煙の匂いが漂ってくる。
その時、足音が聞こえた。
––––「織田作っっ!」