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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第9章 騎士達の凱旋





喉をせり上がる血液の塊がごぷ、と男の口から出て、声が掠れる。


仕方なく姿勢を低くした。

これで少しは聞き取り易いだろう。



「戦いに…情けをかけるのは…人間の悪いところだ…

お前は、暗殺者としての…矜持を捨てるのか」


「ハ。貴様が言うか。」



顔を見上げその相貌にに手を伸ばし
血の線の入った頬を撫で、髪に指を通し、絡める。


そのまま髪を梳いて、また、撫でる。

男の愛しそうな手つきに寄り添うように真綿がその羽を休めた。



男は血を吐き、言葉を細々と漏らした。



「妾は寛大故な。過去の過ちの十や二十くらい血に流そう。
妾に比べれば、貴様は聡明だとも」


「嗚呼––––…戦ってくれて……有難う…」



薄く微笑んだ副司令の男が目を閉じる。

このまま地獄直行だろうが、それにしては穏やかな死に顔だった。



「……ふむん…」



そろそろか––––…

自分の異能で発生した霧の効力が出てきた。



白い着物は血で汚れ、まるで雪の夜に咲く椿のようだった。

嗚呼、世界屈指だなんて大層な位がついたものだ。


筋肉が弛緩し、毒が静かに部屋を満たす。



「あるじ殿」


次に会う時は、せめて一度でもいいから、名前を呼び捨ててほしい。

いや、まあ、貴様が誰かを呼び捨てているのを見たことがないというのもそうなのだが。


「あー……」



自問自答に苦笑を漏らして、男の血の上に寝転がる。

勿論、辺りに飛び散る臓器は避けたが。



身体が動かなかった。



「……疲れた、な」



その時、足音が聞こえた。

複数人の人間が、玄関の向こうから走ってくる音だ。



ミミック兵か、マフィアの黒服たちか。

だとしたら治の部下だな。



「は、笑える––––」



その直後、前方と後方の高性能炸薬が爆裂した。

散弾鉄球と爆炎が歓談室ごと爆砕した。




炎熱の地獄が、罪人二人を迎えにきた。




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