第9章 騎士達の凱旋
「太宰君」
今まで黙っていた森が、口を開いた。
「素晴らしい推理だ。何の訂正もない。しかし一つ訊きたいことがある。
異能開業許可証のために、確かに 私は人員を割いた。
君が仲良くしていた織田君や、手痛い損失でもある真綿君も、そこに含まれている。
それの何が悪い?」
思考と空気が凍りついたように感じた。
何と言ったらいいのか。
言葉にもならない憤りだった。
太宰を、この彼を突き動かしていた何かは、そういう類のものだ。
「私はこのマフィア全体のことを常に考えている。
現にこうして異能開業許可証は手に入り、非合法活動を認可された。
厄介な乱暴者はたった今、織田君と真綿君が命を賭して排除してくれつつある。
なのに君は、何をそんなに怒っているのかね?」
言葉に詰まった。
太宰が沈黙し、森は一枚の絵を眺める要領で、彼を見つめていた。
「君は行ってはならないよ太宰君。君はここにいなさい。」
太宰が踵を返した瞬間に、森が引き止めるように声をあげた。
それに反応し、首領執務室の入り口に侍っていた黒服達が一斉に太宰に銃口を向ける。
「首領」
太宰が振り返り、目を細めた。
「確かに、私が彼や真綿を救うことで得る利益はありませんが……
それでも、私が行く理由はただ一つ」
太宰が謳うように言った。
「……友達だからですよ、織田作が。
真綿は、私の恩人だから。
それで、それだけで理由なんて事足りると思いませんか」
太宰は向けられる銃口を無視し、廊下を歩いて
その姿はやがて見えなくなった。