第8章 暗香疎影
「––––く。」
純白の着物の裾が閃き、彼女の頬に朱線が走る。
一拍遅れて、視界の後方へと微かな血が舞った。
腰溜め、下段に構えたナイフを
くるりと瞬時に回し、逆手に持ち替える。
「嗚呼……いい。
こんなにも胸の昂る戦いは初めてだ。
お前はやはり、世界屈指の暗殺者だ」
「ハ。笑止だな。」
キリ……と二人の視界一面に張り巡らされた鉄線は、
まるで蜘蛛の巣のように空間に網羅されていた。
そして嘲るように笑った真綿は、その張り巡る鉄線の一本の上に両脚をつけて、立っていた。
ピンと張られた線の、真綿の体重がかかるそこだけが谷型にへこみ、それでも千切れることはなかった。
「身軽なことだな、人斬り。」
「……嗚呼、その舌から堪能するように切り刻まれたかったかや?」
とん、と糸から降りる。
先程から目に留まらないほどの速度で
刃と弾を交える二人の身体には、細かい傷がつけられていた。
些細な怪我ほど煩わしいものはない。
「ふん、切っても切っても、致命にはならない…か。
ふふ、貴様には、串刺しがお似合いだな。」
「お前の異能……『聖王』が目に留めた、特A級異能……
いいだろう。
その真髄、その全力……
我らが異能で以つて見せつけろ」
「ほう……
安心するといいさね、名も知れぬ敵。
一撃で貴様を粉微塵に屠って見せることになる故な。
痛みはほぼ感じないとも。」
真綿がナイフを両手に握る。
「妾が異能たるこの刃に屠られることを光栄と知れ。
しかしその後に
我が異能が貴様の心臓を穿ち、
四肢を断ち、五臓六腑を散らすことも忘れるなよ?」
真綿がその目を細めた。