第8章 暗香疎影
「賞賛を贈ろう、極東の暗殺者。
お前が『聖王』から逃げ出すとはよもや思わなんだ。
誰かに購われたと耳にはしていたが」
此奴––––。
真綿が眉をひそめながらも、着物の袂から何やら小ぶりの筒を取り出した。
そこに、極薄のオブラートに包まれた火薬を放り込んだ。
ジュッと音を立てて、自分の履く靴のラバーにマッチを擦り、点火する。
筒に通した細い細い糸からは、わずかにアルコールの臭いがして……
「寝首と言わずその首級、今ここで……妾が殺ってやる。
構えると良い、ミミックの副司令殿。」
真綿の言葉の後、相手も二挺拳銃を手にした。
「ポートマフィアが首領の間諜としてではなく
一人の暗殺者として、貴様の首はここで落とす」
「俺を殺すと言うか。
生憎、こちらはお前諸共に死ぬということもやぶさかではない。」
ギリと琴の音の弾ける音がした。
否––––琴ではない。
「死ぬなら一人で死ね、それか舞踏室にいる仲間と諸共逝け。
貴様は地獄直行だ、ここで殺す。」
哀れな男よな……
その身で以つてその身を滅ぼそうとは。
しかし、その心意気しかと受け取った。
「そうとまでされては、妾も本意でこの腕を振るわねばなるまい」
火のついた糸が、筒に吸い込まれてゆく。
そろそろだ。
「ならば––––」
「ふむん……」
二人の騎士が、鈍ることのない手腕を、刃を振るう。
「「行くぞ!」」
剣戟の音と催涙弾の音が、部屋いっぱいにはじけた。