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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第8章 暗香疎影


同時刻。


織田作が、アンドレ・ジイドの元へと銃を握りしめた時。

真綿が、ミミックの副司令官のいる歓談室の扉に手を掛けた時。




遠き西方、中也と三島が奮起していた。



「俺の重力と戦いてェ奴らは出てこい…!
片っ端から蹂躙してやるよ!」



暗い倉庫の床が 盛大無慈悲に抉られ、中也の操る重力子の塊が
敵の身体ごと床に縫い付ける。

強すぎる重みが背中を押し付け、指先すら動かなかった。



「中也。 そこを終わらせて、次の部屋に行ってくれ。」

「嗚呼」



通信機ごしの三島の指示が、中也と、彼の率いる黒服達の命を握っている。

耳元に響く 三島の落ち着いたテノールはしかし長い付き合いである中也には判っていた。



「……不安そうだな」

「そうかもね。」



久々に吸い込んだ外界の空気が、こんなにも硝煙臭いだなんて。

あの花園が、透徹過ぎただけなのか––––はたまた。




「不安も不安。

だって、きっと。
うん、判るのさ。 彼と真綿は……」



「言うな。」



中也が手を握りしめた。

ギュウ、と革製の黒手袋が擦れる音がする。




「野暮だ。」


通信機の向こうからは、返事は聞こえてこない。



「死ぬ前提だとか、真綿はそんな女性……の前に、そんな暗殺者じゃない。
僕もそこはそうなのだが。
苦い生を引き伸ばしてまで、何を得るものがある?」



一呼吸の後に響いたのは、いつもの、女を惑わし惹き寄せる甘いテノールだ。



「少しは痛い目も見るかもしれない。
それは仕方ないことだ。

でも真綿は、そこまで人間に肩入れしていない。
僕も真綿も、勝てない戦いなんてしない。」



随分な言い様だった。


頭脳労働に特化した幹部なんてものは、軍警の参謀班にも勝るともいう。

恐ろしいほどに頭の回転が速く、突飛にして突出している。




「だけど……うん、何だろうね。」

「あン?」



通信機から響くあいつの声は
穏やかで理性的だったけど、何かに対しての諦観が混ざっていた。



「……あるじのためなら真綿は、負け戦だと判っていても……
その身を捧げるのだろうね。」






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