第8章 暗香疎影
くぬぎの雑木林が鬱蒼と茂る獣道を抜ける。
視界の奥、古い洋館が聳えていた。
紫色のスレート葺き屋根に、宗教意匠の刻まれた半円形破風。
足音すら立てずに、そっと茂みから洋館を見遣ると、短機関銃を構えたミミック兵が二人いた。
気配を最大に遮断する真綿と頷きあい、織田作が一人でその二人の歩兵に近づいた。
「ちょっと訊いていいか?」
無造作に声をかけながら、ホルスターから二挺拳銃を抜き取る。
唐突の登場に驚いたミミック兵二人に向けて、素早く発砲した。
「が……ハッ」
「ぐ––––ぅッ…」
二つの銃弾は狙いをあやまたず 二人の額に着弾し、
後頭部を貫いて後方に抜けた。
二つ分の、死体が地面に叩きつけられる音がする。
「……よし」
「行くぞ」
真綿と共に、洋館に入って行く。
真綿が暗殺に使うあの糸と
そして彼女が保持する異能力は
外野で使うよりも、室内や空間で使うことで真価を発揮する。
確か、あの花園に引きこもっている五大幹部が
真綿の異能を喰らったときも……室内だったはず。
「……真綿。 俺は、ミミックのリーダーとの一騎討ちに行っていいか。」
感情のこもらない声だった。
止めても無駄だということは痛いほど判る。
「止める必要があるかや、未来視の戦士。
……否、今の貴様は……真っ当な復讐者か」
「復讐か…」
復讐。
そうだ。
ミミックは、俺を誘き出すためだけに
俺の仲間や子供たち、よく行く洋食屋の旦那を殺した。
何も関係なかった、無力の仲間を。
「そうかもな……」
「ふむん?」
銃弾を装填し、落ちた空薬莢が鈴のような音を立てた。
焼けついた銀の弾丸が地面を叩く。
「行くが良い。」
唐突に耳朶を打った、その冷静な声に
俺は横にいる真綿を窺った。
「ミミックの副司令官は、妾に委ねるが良い。
貴様は、司令官の…彼奴、えっと……」
真綿が言葉に詰まっていた。
「ジイドか?」
「う、うむ。 疾く行くが良い。」
俺は頷いて、舞踏室に向かった。
ありがたい。
ミミックのリーダー、アンドレ・ジイドは、そこにいる––––。