第8章 暗香疎影
「ぶつかってすまなかった」
しかし織田作にも真綿にも、少年の話に付き合って……
否、耳を傾けていられるほどの猶予はない。
自分の言葉を途中で切られたことに大した反応もせず、
少年が大仰な仕草で眼鏡をかけた。
「おいおい、愚かだねえ君。
この名探偵と対話できる機会を逃すなんて!
僕の異能を見れば、そんな無下には出来なくなるよ!
……疑うのなら、見せてあげよう!」
陽気で尊大、早口に織田作と真綿を交互に見遣り––––
「君たち…」
ふと、その目と声が、冷ややかさを増した。
この二人の置かれた状況に、今更 戦慄したような、そんな調子だ。
「…悪いことは言わない。
だけど、君たち、目的地に行ってはいけない。
考え直すべきだ」
「何故だ?」
嗚呼、と真綿が心中で細く息を吐く。
どうやらこの少年のさっきの言葉は、口先だけではなかったようだ––––
「だって、行ったら君たち………死ぬよ?」
織田作が、懐から煙草を取り出して、咥える。
火をつけてから、少年の横を通り過ぎた。
少年の横を茫とした気配ですり抜ける白い影。
「知っている」