第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「待ってくれ、三島君。話がとてつもなく重い。
取り敢えず三つはっきりさせたいのは––––
その対象となった人物は誰で、今どこにいて、
"混ぜた"のは……何?」
もしも三島の言うことが本当だったとして……
否、もう100%と言っていい確定事項ではあるけれど
太宰の予想通りであれば、その人物は人間社会に溶け込むための学習をしただけの、ヒトとはまったく別の生き物だ。
「……私は……君がよく、判らない」
改めて この人の姿を模した男が恐ろしいと思った。
その恐ろしさこそが人を惹きつけ、魅せるのだと思った。
これが、世界の軍事バランスさえも
単騎で左右させるほどの脅威的な異能を持つとされる『特A級危険異能者』。
その異物感、価値観。
かつて森鴎外に見初められた頭脳を持つの太宰治でも判り得ない、世界(規格)の差か。
きっと人類は永遠に、永久に
三島由紀夫という生物を深層から理解することはあり得ない。
そしてそんな彼の所業を知ったうえで受け入れた森鴎外という人物も。
三島がすっと目を細め、静かに歌うように言う。
「そうだな……まずはどこにいるか、だけど。
これは簡単だ。彼女は今、防衛省から内務省異能特務課に移っている」
「特務課か……うん、まぁ何とかなりそうだ。それで、彼女ってことは女性なのかい?」
三島がやおら頷いた。
彼はたった1人で人類の滅亡を察知し、これに対抗手段を講じた。
ただの誰にも理解されない禁忌で以って……。
自分の身体にガタが来ているのも承知で、この先の未来を守るためにただ1人で。
それをわずか六、七歳の頃にしているという事実。
––––言わずとも知れた、本物の異端である。
「彼女の名前はそのままの意味で千歳……ちとせ。
絶対に忘れないでくれ、太宰」
「本当に本当の、そのままの意味じゃないか……皮肉にも程がある。
彼女は君にある日突然、生贄同然に神降ろしをされて、」
……いや、待て。
三島がそれを行なったのは、彼自身が少年の頃だと言っていた。
つまりその彼女は物心つく前に彼によって
神話生物をブチ込まれ、身体の中身をひき肉のようにされているということだ。
「そして最後の問いに答えよう。
僕が『最適解』と選んで混ぜたのは––––」