第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「由紀が戻ったようじゃのう」
「戻らなくても何とかなっただろうけど、
矢っ張り話し合うという点に於いては彼は大人のままがいいな」
太宰が夢の中の小さな三島を追ったきり戻ってこないのは、まあ予想していたことだったが。
紅葉は風にそよぐ髪を押さえながら、ふと横に座る長を見遣った。
如何に五大幹部だとて、
そもそもマフィアのトップたる森鴎外と会話を交わすには、それなりの手続きというものが必要になる。
それは今でも健在し、もしも五大幹部のメンツが一新するような事態になった際は––––
それは顕著になるだろう。
「……のう、鴎外殿。
もう気付いておるのじゃろ? 由紀はそう先、長くない」
「そうだねえ……」
今だから、今の顔ぶれだから、気にしないのであって。
親しき中にも礼儀ありという言葉は、
真冬の暗殺業にとっても人間関係にとっても骨子の部分だろう。
真冬と三島はポートマフィアの中枢メンバーとして首領に恭順しているが……
その実 この2人は、森鴎外という一個人の所有物。
故に、『五大幹部のメンツが一新するような事態』はあり得る。
「勿論、そうならないように手を尽くしているよ。
彼がいなくなれば、本当にエリスちゃんと天涯孤独になっちゃうからね」
「真冬は……」
「いや、ちょっと言葉が違ったかな。
彼女が死ぬときに三島君も死ぬし、
或いは三島君がいなくなれば彼女も自ずと消えてしまう。
あの2人は因果律が互いに強い」
どちらか一方の死というものに対して、誘引率が高すぎる。
道連れという死に方が……
きっと、あの2人にとっては最高の死因なのだとしても。
「何とかする」
「鴎外殿」
手を組み顎を乗せたその姿は
行き詰まる文明を見るような、どのみち諦めるしかないという雰囲気を醸し出していた。
「こういう時、常に献策してくれたのは……
今小さくなってる者たちだからのぅ」
「本当にね。だからこそ喪えない。
三島君が人間になんて爪ほどに興味がなくても、
理解者で友人というのは変わらない事実だから」