第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
『太宰。
……僕と、友だちになってくれないかな?』
「––––……」
太宰がその双眸をぱちくりと丸くし瞬かせた。
まさか三島の口からそんな言葉が出るなんて。
だってあの三島君だよ?
大人の彼も子どもの彼も、記憶が繋がっているのだから然して目立った違いの述べられない三島君だよ?
しかもそれを口にする事で事件の膿が快癒するのなら、––––嬉しいことこの上ないじゃないか。
「……そこはさ、もう少し誇張して『親友』とか言っておかない?」
「太宰の親友は中也の場所だろ」
少しの沈黙。
「違うよ、中也は相棒。
親友っていう次元じゃなーいーの!」
「ハハハ、美しいようで結構結構」
三島君の内なる願い。切なる願い。
刹那主義である真冬や首領と似通った彼の……願望。
嗚呼そうか、と私は独りでに理解する。
三島君の『親友』枠は、我らがリーダーであるあの人のものだから……。
そっか。そうだよね。
私はニッと笑った。
「喜んで。私で良ければ、君の、三島君の友だちになるよ」
嗚呼それにほら––––君は覚えているかな?
私の去年の誕生日のこと。
真綿と喋らせてくれた時、君の声が音になる前に夢から覚めてしまったこと。
確かこう言ったよね。
「『ていうか、私は君のこと由紀君って呼んだんだから、君もそろそろ苗字呼びやめない?』」
「 ! 」
三島がその聞き覚えのある言葉に太宰を見つめた。
そして「仕方ないなあ」と言いたげに笑う。
あの冷たくない目で、年相応の無邪気な笑顔で。
「ありがとう。治」
「ふふふ、友だちだからね。謝罪は無しだよ、由紀君」
そうしてその瞬間
夢の中の彼も、現実で微睡む彼も、元の姿に戻ったのだった。