第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「––––、」
隣で小さく息を吸う音が聞こえ、中也が真冬を横目で見る。
真冬は何を考えているのかよく判らない目をして、一点を没我とした表情で見つめていた。
……こういうところが、潜在的に奴––––三島に似ているのだと思わされる。
「……随分と……昔のことさ。
聞いてもきっと、詰まらないだろうものだけど」
「……いや」
真冬は子供には相応しくない顔で呟いた。
二人して身を横たえて、まるで下草に寝そべり天体観測でもしているかのような雰囲気が出ている。
実際はそのような平穏さなど程遠く、
たとえ誰かが彼ら彼女らの平和を望んだとしても争いは起きるのだろう。
真冬が傷つかない世界になるといいね。
そう微笑み口にした三島にとって、真冬の傷つかない世界に『非暴力』は含まれていない。
彼は真冬を判っていた、知りすぎていたことから来る冷徹さというのもある。
争いに恨みを持ち越した者から早死する。
そう首領も三島も真冬も口を揃えて言う。
「人は……幸せでいることに恐怖を感じるようになった時、自分の何か大切なものを喪い、損なうのさ。
そう感じるからこそ失われるもののことさな」
名前のなかった昔の真冬が、その時の主人に言われたことだ。
日常と定義された代わり映えしないものにこそ幸せの価値は宿り、そしてその幸せとは永遠に続かないものだと知ってしまう。
そして人間はそれに気づくのが遅すぎた故に、悔恨を持ったという。
後悔するとはどういうことか。
それは、事実に反する思いを持つことである。
そう由紀は言っていた。
「ねえ、中也。
わたしは……わたしはな……
今の"子供の妾"は本来 聖王の持ち物だったはずなのに、今がすごく幸せなもののように感じて、いささか怖い……」
真冬の言葉に、中也は衝撃を受けた。
何かが冷たくなっていくような感触がする。
中也の手に真冬の爪が立てられる。