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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念






––––夢を見ていた。





それを彼が『夢』と表現するのは些かおかしいのだが、巻き込まれた太宰にはそれが夢なのだと判った。

夢の中に引っ張られるのは異能力の効果に入っていない。



三島由紀夫という彼の夢こそが彼の領分であり
夢の中に介入することと夢を見ることは全く別だ。


人工的な生を感じさせるもの––––

人は夢を見るために、夢のない世界を選んだのだという。





どこかの海岸線に立っていた太宰が周囲を見渡せば、幻想的な破滅の煌めきが雨露となって降りそそぐ。


「お早う、太宰」


彼はそこにいた。



低い巌の上に座って、壊れかけの空にある白い
"染み"(雲のようなもの)、あるいは
砂浜の船虫でも見るような目で海を見つめている。


そこにあるのは絶対的な無関心だ。


私はため息を吐く。


「……おはよう、三島君」






そこにいるのは言わずもがな三島由紀夫、だが今の彼は小さかった。
子供部屋であやとりでもしていた方がいくらかマシというものだろう。


三島君の哀切な紺色が私を見た。





「……ねェ、三島君。
君はさ、『明日』というものを考えた事があるかい」



私の問い掛けに、彼は他人じみた……

否、たしかに他人なのだけれど、
見知らぬ人でも見る顔で私を見つめる。




「あのね太宰。
本当の苦しみというのは、徐々にしか来ない。
肺結核にも似ているよ。

ぼくはひとの夢の終わりを幾度も見てきた」



白々しく切り込む覚醒への不安、あの醒め際の夢の虚しい悦楽、機械的に彼は見つめ続け女性を慰めてきた。

見た目は割と気にしない方だと笑った三島君が、随分 昔のように思える。




「判らない。判らないよ。

無感覚というのが強烈な痛みにも似ている事なんて、ひとには判らないだろうね」




––––お前は人間ではないのだ。

お前は人交わりのならない身だ。
お前は人間にならぬ何か奇妙に悲しい生物だ。





強烈な痛みは、苦しみは、そう告げるのだ。



そうしてにわかに三島に訪れる収斂された苦しみこそが、皮肉にも彼を正常な生き物にしてくれる。







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