第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
太宰の問いにしかし首領は三島の顎から手を離し、その場に腰を下ろすだけだった。
そうだねえ、なんてゆっくり語り出してみる。
懐かしい回顧、追憶。
『先ほどは申し遅れました––––
僕のなまえは、三島由紀夫です』。
そうエリスの手を握った少年の
人間味を感じさせない雰囲気が、気に入った。
そして三島君は、私が汚い遣り口で
ほとんど彼らの言い値で莫大資金を政府中枢に投げつけたのも知らずに
私を友人だと微笑んだ。
「私は友人を欲していたらしい」
「さあ? 知りませんが……」
首領の言葉に太宰がふと笑う。
たしかに三島君は、首領のことを首領と呼ばないかもしれない。
言われてみれば、森さんといつも言っている覚えがある。
それは、三島君自身が
ポートマフィア所属ではなく森さん本人の私邸夢見屋だからかな?
ポートマフィアの森さんに仕えているのではなく、あくまでも個人雇いの森さんに仕えているつもりなのだろう。
だから首領とは呼ばないのか。
いつか森さんが首領の玉座を降りる時––––
ともに彼も、三島君も行方をくらます。
そうしたらあの獣を従える部下の少女はどうする?
「ん……もり、さん…?」
「……三島君」
首領の唐紅が細められる。
三島の円らな星空色は、その赤と混じって瞳の中に紫を生じさせた。
「子どもの君は、何がしたい?」
「え?」
「聞いて見たかったんだよ。
私は鳥籠にいた幼少の君を知りながら、今でも君を病室に保管している。
時たま、気分転換程度に退屈凌ぎは訪れもしよう。
だが君は何も望まない」
嗚呼、そうか、と。
ここで初めて、太宰は首領のいう『友人』像を理解した。
三島のような人物を己の友人として望み、
また三島のような人間以外の友人などはなから欲していなかった。
「僕は人間のように強欲ではありませんよ。
だが、出現願望もない。
ある程度の未来(さき)を垣間見れる僕は、
森さんの友人という座以外何も望みません。
……嗚呼、僕個人としては真冬さえこの世にいればそれでいいんだけれど」