第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「彼はおもちゃではありませんよ」
「嗚呼、そうだね。
けれど三島君にとっては、私も太宰君も中也君もひと時の休息にしかならないよ。
彼女以外……真冬君以外、誰も要らない。
三島君はそう滔々とした表情で、調子で、仕えている私に言うくらいだ」
けれど三島は、人間が好きだ。
人間の笑顔が好きだ。
人間の営みが好きだ。
だがしかし、彼自身にそれらへの興味関心は爪先ほどもない。
見ていたいとは思うけれど、実際自分がそこに当てはまることに何の意味も見出せない目をする。
嗚呼、たしかに彼は人間ではない。
実際問題、彼がいつか人間に昇華される時が訪れるならば、この世全ての人間が根絶やしにされ
『今なら人間になれるが、なってみる気はないか?』と言われれば曖昧に笑うのだ。
花屋で花でも見るような目で。
「聞きたまえ、この寝息を。
少年だ。
今の太宰君よりも半分ほども小さい少年」
ぞっとするくらい美しかった。
まるで彫刻のよう。
屍蝋化現象というのがある。
一定の条件下で保存された死体が腐敗せず、そのままの形を保ち続ける現象だ。
伊太利亜には、2歳児の亡骸がその屍蝋化現象のおかげで百年経った今も
ほとんどその形状を変えず聖櫃に収められている。
どちらかといえば真冬の好みは太宰の美貌だし、三島はよく中也の精悍な顔つきを褒めていた。
だが––––
この人は、首領は、そういう次元で彼を語っていない。
それが太宰には腑に落ちなかった。
「なぜそうまでして、三島君にご執心だったんです?
昔の森さんは」