第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「……すぅ……」
「寝てしまったか」
首領と紅葉の目先で、エリスを寝付かせていた三島。
いかに睡眠欲が希薄に設定された存在なのだとしても、夢のある陽春の風に吹かれては彼といえども眠気を催すようだ。
三島の膝上に金糸を投げ出して寝るエリス嬢と、
頽れるようにして浅い寝息を立てる三島。
もし今首領と紅葉がここにいないか目を離していれば、十中八九 誘拐されていただろう。
そもそも、首領の思い描く幼妻エリス嬢と
見目麗しいという理由だけで幼少期を奪われた三島ペアは、好餌というか危ない罠というか。
「首領」
「おや、太宰君」
中也と真冬のところから歩いて来たのか、ポートマフィアアジト近くのこの公園に太宰は現れた。
抜けるような青空に一面の新緑がまぶしい。
土気を含む水っぽいにおいは、三島のあの偽の花畑では決して再現できないものだろう。
「……三島君は、あの姿のころから首領のおそばに居たんですか?」
「うん、まあね……
もう少し年は入っていたけれど、大体あの頃だ。
『明日空が落ちてくるかもしれない』と怖気付き、三島君を……特A級危険異能力者を
その手元に置きたがった政府の鳥籠から連れ去った」
首領が腰を上げてエリス嬢と三島の方へ歩み寄る。
太宰の黒瞳が首領を見据えた。
「太宰君、見たまえ、この顔を」
そう言い首領は眠るエリスの金髪を優しくなでて、静かにかたわらの三島の顎を持ち上げる。
「これが特A級危険異能力者と言われる災厄のかたまり。……そうは思えないだろう?
喉から手が出るほど欲しがる人間は山といる。
およそ人間の感じる生理的な嫌悪と畏怖をまぜたものが、こんなに綺麗な存在だなんてね……」