第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
思わぬところで真冬の、その異様なまでの
博識ぶりを目にしたが、暗殺者である真冬なら十分あり得たことだ。
何でもかんでもに精通するのは暗殺者の常である。
ただそうとなると配役はどうなるのだろう。
劉備が首領であるのは間違いないが、関羽が太宰で張飛が三島か?
「……自殺が趣味の関羽と、花畑でずっとまどろむ張飛なんてのはいいのかよ」
「なら劉備が由紀で関羽がそなた、張飛に治で良さげさね。
差し詰め悪の三大幹部みたいでたいへん魅力的だ」
嬉しくないが真冬は舞台上に上がるつもりはないみたいだ。
真冬は苟も森首領の私邸暗殺者で、執事役をこなす刀自。
単に敵を屠り百花を添え、
誰の目にも留められぬまま夭逝するのが三島が視た真冬の死にざまである。
それもそれで風流なものさな、と真冬は他人事のように笑う。
元より、酒の肴に月夜とエリス嬢、それから
されこうべを望むような首領の懐刀。
「わたしは別段、特別な名誉など不要さね
争いの火と、ひと時の羽休め。
それより他に望むものはない……」
望むものはないと口にしはしたが、正確にいえば
真冬はそれ以外のものを望まない、あるいは思いつかないように生まれてきたのだと思う。
「フ、わたしはすでに冠位取得後の暗殺者故な……
女ではあるが暗殺者でもある。
どちらも大事にしている」
真冬の高潔な目が向く。
……が、今の子どもの姿で言われても単に可愛いだけである。
嗚呼、真冬は変わらない。
変わらないでほしい、切にそう願う。
「真冬」
「ぬ。 何だ……腰に…
っぷ、ふふ、はははっ」
中也の腕中で、年相応の幼い反応を見せた真冬は
間違いなく、本当にこの頃の、
いつかの真冬が反映されているのではないか。
少なからず、三島がそうであったように。