第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
清雅なりしその花のかんばせ。
三島の病室であったあの不夜の楽園……
その視界一面、四方の春の中
真冬が桜の花びらを巻き上げて、青空に退屈していた三島にした
あの時の舞踊みたいな仕草は、深く深く脳裏にこびりついている。
生涯で初めて、その刺すような『綺麗』さにぞっと背筋が凍ったのだ。
強烈に、鮮烈に、痛烈に覚えている。
中也が初めて三島を花園で目にした時も
その得体の知れない、場違いな異様さに悪心がしたものだ。
きっと中也や太宰、首領といった三島に身内と見定められていない一般人が目にしたのなら
口元を押さえて激しく胃酸を吐き散らしていただろう。
墨絵を見ているのかと思うくらいに、その色彩はつまらない。
青空も小鳥の鳴き声も花も風もあると言うのに。
それらは全て三島の異能力で出来た、急ごしらえの花畑だったのだとあとで知った。
「中也? ……何を思っている」
「真冬と初めて会った時……
紅葉姐さんではもう手に負えないからッて真冬が総合武術の師となった」
中也の言葉にあぁ、と真冬はどこか遠くのものに返すように呟く。
それどころか真冬からは破壊工作、
宣撫転覆、掩蔽、およそ卑怯千万と称される手練手管は十全に教わっている。
肉体労働が独壇場たる中也では、それらのほとんどが使わないものなのだとしても。
「……まあ、わたしは武芸百般を求められる人材だからね。
知的労働が主たる者が多いだけさ。
わたしは兎も角、由紀も治も」
頭脳戦これめっぽう強い太宰、
こと精神侵犯に関しては甚だしい三島
そして我らが首領森さんといえば
無慈悲、無惨、無情と
ヨコハマの三大覇王か、はたまた裏社会の三銃士みたいである。
そんなことを口にすれば、心底可笑しそうに真冬が笑った。
「ハハハ、そんなの何かにあったような気がするでね。
……嗚呼アレだ、桃園結義さな。
『我ら三人、生まれし日、時は違えども
同年、同日に死せん事を願わん』。
だったかや?」