第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
ここで中也が、『こういう時三島なら何て言うか』と考えたあたり大概だった。
中也にとって三島は太宰と同じように、仲間で腐れ縁で友人……悪友というやつか。
そう、それである。
「……特異点が発生する、だ。」
真冬が呟いた。
その黒髪を小さな背中に流して指先でくしけずる。
伏せったまつ毛の影は真冬を子どもだと思わせないくらいに色気があった。
「特異点」
「嗚呼、そうさ。
異能力が発動すれば死亡結果が母体に押し付けられる。」
死産なり手元が狂って動脈を切ったり、何かしら起こるのだろう。
けれどそれでどうなる?
母親の死はすなわち胎の中の嬰児が生まれる前の死。
つまり出産する前に亡くなってしまったという因果になるのだ。
発動者が発動するまえにすでに死んでいる(正確にはこの世に生まれきていない)––––
そんな事象のひずみなど、御誂え向きな特異点の巣穴。
生きている頃にたしかに異能を打ったのに、打つ前の自分が死ぬ。
因果逆転。
因果律の遡行。
パラダイムシフト。
一人で自己完結している性能が故に、己の行動であっさり死ぬ。
真冬が特A級危険異能力者なのも、冠位を保持した暗殺者であるのも納得の理由だ。
「……これ以上の小難しい話は由紀に聞くといい。」
真冬が着物の帯留めを解き、するするっと小紋がはだける。
まるで真っ白い雪原のような着物。
赤い半襟。
青い帯にかかる黒髪がその白さに眩み、浮いて見えた。