第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「そこ……!」
––––ィイン……と刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。
立原がすかさず銀の背後から発砲し、
中也が手を掲げれば
【汚れつちまつた悲しみに】の濃い紫色が燐光を伴いはじけ飛んだ。
「真冬幹部がとんでもなく速い」
「嗚呼クソっ、限界はコンビニ感覚で逝くところじゃねェっての!」
立原のクイックドロウを真冬が刃の峰側で打ち返し、耳障りな大音声が鳴り響いた。
跳弾として廃莢が跳ねて、地面に突き刺さる。
恐るべし立原の銃弾。
「ふむん……
努力は身体で示すもの、だ」
真冬の呟きが自分のかざした腕の下から聞こえ、立原の反応速度を超している。
銀が小柄を手先から投擲し、真冬がぎりぎりで短刀をはじいた。
弾を撃ち尽くしたから拳銃のスライドストップがせり上がり、そのまま新しい弾倉をグリップ下からリローデッド。
約2秒のほんの短い間に、中也の容赦ない足蹴が
真横に––––捉えた!
「ぅわっ……っ!?」
「実戦形式なンだからな、一応」
怖すぎ……!
真冬幹部もだけれど、出来のいい部下二人の訓練(と信じたい)にノリノリなのは中也もだった。
目先に捉えた中也の、異能力を乗せた爪先が当たれば
人間の首なんて戦国時代よろしく無様に吹き飛ぶ。
立原が身を反らし避けたところに中也が発砲。
服の裾を引き千切って、弾丸が僅かに回転しながら地面に食い込んだ。
「殺す気ですか!!」
「あ? そら、まァ––––」
中也が片脚を何気なく上げて、何かを詠唱。
そのまま目下の土に、その脚を振り下ろした。
ギャラリー(太宰)からすれば、何もないところにかかと落としでもしたように見えたが。
「手ェ抜けば死ぬわな」
ダァン!とものすごい破砕音を立てて、地面にクモの巣が奔る。
暴虐的かつ圧倒的な重力の奔流に
地面の硬度が圧し負けた。
ぱらぱらと小石やら砂埃やらが太宰や広津さんの方にまで飛び、漂ってくる。
「……俺らの勝ちだ」
視線の向こう、銀が片手でかざした小太刀に
真冬がスカルペルでつばぜり合いをしている。
だが、王手をかけていたのは真冬。
空いていた片方の手が銀に拳銃を突きつけていた。