第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「ねえ、ねえ、ユキ。
向こう行きましょ?」
子ども二人を連れてバラ園に訪れた森鴎外その人と、引率(首領含む)役の紅葉。
それからエリス嬢と小さな三島。
「エスコート、してくれる?」
「もちろん。エリスお嬢さま」
真っ赤な布地に精緻なレースの意匠が凝らされたワンピースを、
まるで薔薇の花弁のようにひるがえし
エリス嬢がトントンと前に出た。
とはいえ、そこまで遠出はしていない。
ポートマフィア本部ビルの近く、港の見える丘公園に来ていた四人にしてみればお庭と同じ。
三島は子どもながらに特A級危険異能力保持者。
……というのは建前で、
結局三島は子どもであろうと大人であろうと、身体の弱さは変わらないままだ。
出先で発作でも起こせばすぐには戻れない。
だから近くて尚且つ綺麗なところ、それがここだった。
薔薇が見たければ三島の温室に行けばいいのだが、首領としては子どもの三島を
今日一日だけは甘やかしてやると決めた。
「……なんだか、とても平和だ」
「平和さなぁ……」
アールヌーヴォー調の小綺麗なベンチに座り、ただの町医者に扮した首領、
そしてどこからどう見ても美人過ぎるお姉さんがひとり。
珍しい取り合わせであった。
「ふふ。
あの二人は、本当に本当に可愛くて仕方ないのぅ。
愛くるしい……」
紅葉の言葉。
向こうの噴水近くで、子どもたちは笑っている。
それを眺める大人二人は、どこか遠くを見る要領で子ども二人を見つめていた。
「由紀は……
あのような顔で、笑うのじゃな……
人間的な成長も退化もしないのかと思っていた」
けれど、三島の身体にはもうそろそろガタがきている。
彼がいなくなれば中也君だって……
三島君に甘いから、ねえ?
彼は。
真冬君は太宰君も中也君も大差なく扱っているが、一応三島君は彼らより年上。
だから中也君にとって、真冬君は––––