第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「とはいえ……」
真冬の丸い大きな黒い目は、隣を歩く中也に向く。
太宰はしっかりとその小さな手を繋いでおり、
時折ある段差やら高い把手やらを避けつつ歩く。
「わたしが小さいとしても、中也の体術の稽古を怠るわたしではないぞ」
「うわっ……まじか」
「まじだよ」
中也の体術は、紅葉や暗殺者である真冬がよく付き合っていた。
……というより、中也の実力に見合う人がこの二名くらいしか挙げられなかったとも言うが。
「体が小さければ小さいなりにやる戦い方があるというもの」
「そうだよ中也。小さいなりにねえ?
君の本懐ではなかったかな?」
真冬の言葉に太宰がプークスクスと某青タヌキみたいに笑った。
中也がそれに噛み付く。
「て…ッめえ…!」
今ここに、こういう口喧嘩をやんわり止めるあの花園の彼はいない。
彼女も彼もいつ戻るのかなぁ……
地下訓練施設にたどり着き、砂地の床は実戦形式。
中也が外套を脱ぎ、太宰の座るベンチに置く。
対して小さな真冬は、暗器をちょっと確認して向き合った。
この二人に無駄な言葉はいらない。
「さて……」
「––––、」
交わる視線。殺気。
瞬間、真冬のいつにも増して小柄な体躯が掻き消えた。
と、そう気付いた時には、目の前に真冬がいる。
中也の喉笛に白刃が迫っていた。
「ちっ––––!」
「ふふ……」
まるで跳ねるみたいな戦法は、いつもの真冬相手に味わえない奇襲。
中也の口元に獰猛な笑みが浮いた。
「そこっ!」
速い。そして速い。
とにかく尋常じゃないくらい速い。
相手が中也でなければ、あるいは紅葉でなければ
肉眼で可視する事も出来ないだろう速度。
小柄に足して、小回りの効く得物ばかり
暗殺者というのは使ってくるイメージ。
中也だってそれは同じだった。
故に
「らぁっ!」
小細工が鬱陶しい単細胞中也は、真冬を投げ飛ばすことにしたらしい、けど––––