第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「かーわいい……」
太宰が三島の服の袖周りの、丁寧な意匠をされた
精緻なレースをまくってその手を出してやった。
三島君は基本物腰柔らかい人なので、こういうの、子どもの頃からよく似合う子だったんだね。
エリス嬢は年の割に大人びた……
否、マセているというか、三島が『王子さま』であるからして
彼らにとって、純粋に"子ども"というのをポートマフィアで見ること自体がない。
Qや鏡花が、まだ居なかった時には。
「由紀、私がその御髪をくしけずってやろう」
「うそ、うそ。
わたしの王子さま?なの?よね?
今のユキとわたしなら、ばっちりじゃないかしら?
見た目至上だし……」
子どもの、小さな手。
守ってあげたくなるような存在。
小さくて、可愛らしくて、危なげない。
太宰や中也は、三島の小さい頃を見たことがないから新鮮かもだが真冬はそうでもない。
小さな三島を、当時のあるじ……
『聖王』に命ぜられ助けたのは紛れもなく真冬。
「説却––––と。
珍しいだろうけれど、三島君がどうして小さくなってしまったのか、調べなくてはね。
紅葉君と真冬君も来るといい」
「ふふ……」
「ああ…、うむ」
菜穂子は中也と太宰に頭を下げて、そして若干太宰を避けながら三島の幹部執務室に戻った。
この様子では、今日一日で済めばいいが––––
否、それはないだろう。
直属部下として仕事は沢山ある。
でも、こんな面白い事態は今後二度と起こらない。
一度きりだからこそしたいようにすべきだ。
「芥川君と上橋に、今日丸一日の雑務は丸投げしようか」
「……片してくれるンじゃねえの?」
「だから言ってる」
太宰がそう言って笑った。