第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
「……森さん、森さん」
朝方、まだ微睡む目で
ガラス時計を見遣れば、朝の5時。
首領とエリス嬢の夢見屋たる三島がそばにいる限り安眠は約束され、エリス嬢の羊の夢は守られる。
だが––––今朝という今朝は
首領の耳朶を、聞き慣れているようで、
しかしもう遠い昔の声音がくすぐっていた。
「……三島君…?」
首領が目を開けて、柔らかな力で
自身を揺さぶる彼を見る。
……見て、目を見開いた。
「……あれっ!?」
「ぷ––––ッ……くっ、ははっ、あははっ!」
「みっ…三島っ!……ぶっ、は、あははっ」
「これはまた……異なことに……ぷ。赤いクスリか? 黒の組織か?」
上から、太宰、中也、真綿––––つまり真冬。
三人の横には首領と、愕然とした表情で
何やら複雑そうな様子を見せるエリス嬢。
そして、小さな三島少年が座すソファチェアの後ろには、何をどう反応すれば良いのやら戸惑う菜穂子が。
そう、今朝のことだった。
浅い眠りについていた首領を起こしたのは、彼であった。
……まあ、そこまでは、執事役だった真冬君より早いのは珍しいな、くらいだとして。
首領の広いベッドに乗っかって、ぺしぺしと叩いた小さな少年。
無機質が持つ幾何学的な美しさ。
ガラスのような氷肌玉骨。
見る者の脳を犯し、また侵食してくる夢喰い。
一目目に入れるだけでその『寂寞』を
脳裏に焼き付け心酔させるかのような
暴力的なまでに強烈な印象を受ける、浮世の泡沫人。
特A級危険異能力者。
夢の番人、三島由紀夫が––––
小さくなっていた、だなんて。
「その三島君、何歳くらいだろう」
「……七歳あたりか?」
ソファに座る三島は、大人の自分の服を着ているからぶかぶかの袖から指先すら出ていない。
目の前にいる太宰と中也の言葉に、首領は口にせずとも懐かしいと回顧に触れた。
嗚呼、そうだよ。
六つか七つの時の君だね……三島君。