第48章 Re:birth…III
国木田の放った弾丸が
ビュッ……と空を裂いて、煙の向こう、
わずかに血の香りが漂ってくる。
三人が構えた。
相手は今の一発をわざと受けている。
言いかえれば、煙で弾道が判らないというのに致命を避けられたのだ。
真冬の背が遠ざかり、あっという間に煙の向こうへと消えゆく。
「どうしても、かな」
こつ、こつ、と静かな足音が二人分。
現れたその二人のうち、一人に国木田が刮目した。
……あの彼は……
与謝野女医がいつだったか、友人だと運び込んできた人ではないか。
そしてこの彼がいるというのなら、あの巨獣を操る少女は––––
およそ戦場に相応しくない柔らかな雰囲気を散らす彼が、その美しい貌の頬を伝った血の錘をぺろりと舐める。
「どうしてそこまでして、民のために戦い争うんだい?」
「……甘言だ。惑わされるな」
敵二人に隙はない。
やろうと思えばいつだってこちらの脅威になり得る力を揃えている。
「そうじゃない?
昼間、君はそう思わなかったかな?
助けてと言われたから助けたのに、
いざこちらが"純人間"でないと知れば、人間はこちらを迫害するんだ」
昼間––––?
国木田がハッとした。
偶然引ったくりの現場に国木田と真冬は居合わせて、倒れたご婦人にすがり付かれた。
鞄を取り戻してほしいと。
それでも、目の前で異能力を使った直後のあの女性の目は、こちらをけがらわしく思う目だった。
「彼ら"純人間"の手に負えない不浄な者たちを、君らは排除する。
けれど……それは本当に望まれているのかい?
お礼を言われるより
拍手をされるより
もっともっと、別の目に遭って来なかった?」
言い返せない。
言い返せなかった。
国木田の金色の瞳の奥が小刻みに震える。
理解者が前にいる。
けれどそれは、甘い甘い罠。
「っ––––それは」
その時。
––––トン……と
太宰の指先が、国木田の背中に触れた。
「【人間失格】」