第48章 Re:birth…III
「––––」
「––––」
ビッ……と風切りの要領で、三島の柔らかな髪が風圧に踊った。
金色の蝶が煌めく。
「っ」
「力で男に敵うと思わない方が良い」
与謝野が予備動作なしで三島の頸椎に放った手刀、三島が与謝野のその細い手首を片手で掴んでいる。
絡め取られるように押さえ込まれた与謝野の手は、少しも動かせなかった。
三島の反対の手は、与謝野女医の眼球を刺し潰す寸前にまで掲げられている。
寸止めなのに、まばたきすら出来ない。
……それは、紛うことなき暗殺技術だった。
敵の両眼を突くという残虐な行為。
「……なんてね」
三島が穏やかに笑って、
与謝野の目元から手を離し、掴んで止めていた手も離した。
殺伐とした二人の様子に
遠巻きに見張ってた中也は、つい反射で拳銃のトリガーに掛かった指を外す。
容赦ねェのな。
まあ、三島に人間の倫理観などほど遠い。
それに『晶』ッていうあの白衣の奴も、今のは本気で三島を手に掛けようとした。
三島に何か呟いて、三島がそれに笑って、
覚悟を決めたように相手を傷つけようとしたのだ。
その一瞬の逡巡が、色恋沙汰だとて彼らは白と黒。
相容れない世界に生きている。
(恋愛は別ッてか?)
恋は一瞬で愛は永遠だという。
三島が指突きの指先をそっと遠ざけて、白衣の奴から一歩だけ離れた。
「傷つけあうしかないの?」
「傷つけあうしかないんだ」
三島の紺色の目は、一縷の望みとて信じていない。
その怜悧で理性的な視線が、ふと明後日の方向へ向けられる。
「説却と……そろそろかな」
「そろそろ?」
「そう。晶の仲間が来る頃だよ」
夢が終わる音がした。
一般道では規定違反の速度で近付いてくる、エンジン音。
中也はとうに気付いている。
「三島、行くぞ」
「うん。……じゃあ、またね。晶」
三島がレースの裾をひるがえして、車に乗り込む。
与謝野女医が、一回だけ
その赤紫の双眸を拭い––––
「また、あとで」
近付く探偵社の車へと、歩いていった。