第48章 Re:birth…III
まるで荒野のような乾いた風が、
中也たちの髪を揺らした。
幹部車両に寄りかかり、中也は少し遠くを見張っている。
そして風になびいた帽子を片手で押さえれば、その青色の目線を上げた。
視界の奥にひとりの女性が立っている。
黒色の医療鞄を携えながら。
彼女が、三島の言う知人––––『晶』であることはとうに理解済み。
先のヨコハマ市街で起きた大火災で、中也や菜穂子と共闘した奴だったから。
「来たね」
「あァ……」
ここにいてと三島が中也に制したけれど、逆に中也がその手を掴む。
手首を引かれた三島が一瞬だけ驚いたのち、濃紺の双眸をおだやかに細めた。
自分を留めていたその強い力をやんわりと離す。
精緻なレースがふわりと揺らいだ。
「大丈夫。
ここで事を起こしたって、何の利益もない」
「チッ……判ッたよ」
三島が安穏に笑い、女医の方へと歩み寄る。
真っ黒い高級車、幹部車両から離れて。
「久しぶり。……でも、ないかな。
二週間振りぐらいだろう。
またぞろ面倒な事態に巻き込まれたと見える」
「嗚呼……久しぶり、由紀。
そうだねェ。相変わらず、そっちもかィ」
与謝野は三島がポートマフィアの一人だということを知ってしまった。
知ったけれど、敢えて異能企業である体を貫く。
……彼が、三島由紀夫が
天下の暗闇そのもの、犯罪組織の五大幹部であることも知らないままに。
「……由紀」
「ん?」
でも
「––––妾、さ」
その夢も、もう終わりにしなければならない時が来た。
彼が見せてくれた白昼夢が崩れ去るのが、
少しだけ
ほんの少しだけ早まっただけだ。
ギュゥっと与謝野が痛いくらいに自分の手を握りしめる。
いたい。
痛かった。
「……この戦いが終わッたら……
由紀に伝えたい事があるんだよ」
痛かった。
敵組織だと判っても、
命を奪い合う人物だと知っても、
「そっか。聞くよ……ちゃんと。
だったら生きて帰らないとね?」
与謝野晶子にとって、由紀は由紀だと思いたかったのに。
「嗚呼……」
瞬間、与謝野が白衣を閃かせた。