第7章 好きになったもの。前編…芥川龍之介誕生日 3月1日記念
「恋路ッて。笑わせる」
それなりに古めかしい言い方に、中也が笑う。
「でも、好きな奴なんて聞いて、芥川は何がしたいンだかな」
「さあね。私の知るところじゃないよ。」
芥川の教育係である太宰は、芥川に厳しい。
芥川に対して突き放した言い方や行動を取るが
彼の実力を判っているのもまた太宰なのだ。
「愛だの恋だの、人に教えるだなんて面倒臭い。
そう言うのは大概、笑って誤魔化すあたりが妥当だろうさ」
真綿の言葉も最もで
人間の情に希薄な三島にも それは判るところだ。
「ま、僕の場合はね。
これはちょっとだけ特殊であるし。」
ちょっとだけな訳があるかと
中也が眉を寄せる。
そんな中也の心境を察した三島が
ふふと苦笑した。
「多少の痛み辛みは、それこそ愛で我慢しよう。
この僕が呑気に愛を語るのも、おかしな話だけれども。」
「そんなことはない。
私にもそれくらい判るさ」
その大怪我で 年中 楽園に引きこもりっ放しの彼だが
女性には 常に優しく紳士的、を
彼なりの『教育勅語』的なものにしているわけで……
「え。
じゃあ今度 合コン開く? 厄介そうな女性がいたら、そこはほら。
芥川君に嗾けておけばいいのだし。」
マフィアが合コンを開くものなのかと
三島のずれた着眼点はそこだったが
「いや。いやいやいや。
待て。そもそも太宰。手前ェの好きな奴?とかまだ聞いてねェんだけど。」
というか芥川まで連れて行く気なのかよ。
しかも嗾けるのかよ。
いや待て、手前ェも芥川も、あとはギリギリ三島も、まだ未成年だろうが。
「私の意中の女性だなんて、判り切っていることじゃあないか。
ねえ、三島君?
そうだよね?そうでしょう?」
「え、何、宣戦布告?
僕は怪我の身なんだから、ちょっと頂けないかな。
まあ、いいけれどね。」
二人とも目が全くと言って笑っていない。
視線での冷戦が勃発していた。
「……中也は?どうなのだ?」
「ン?」
にこにこと笑いながらも睨み合う あの二人に
もう興味を削がれたのか
真綿が中也に問うた。
「あー……」
真綿のこの流れ的には妥当な質問に
中也は 覇気なく 頬を軽く掻いた。