第7章 好きになったもの。前編…芥川龍之介誕生日 3月1日記念
「僕の異能は、たぶん、真綿から聞いているはずだ」
「うん」
まるで自分の初恋を話すかのように
うっとりと____自分の惨状について語り始めた。
その大怪我を話すような顔じゃないんだけど…と
常人なら思うところだろう……。
「僕の異能は、精神操作系でね。
とても悲しいものだって言われるのだけれど」
三島は言葉に反して、微塵にも 憐憫を思っていない顔だ。
「愛する人に、殺される。
それを叶えてくれる力なのだと思うよ、これは。
『愛する者に殺される』異能だなんてね。」
具体的に言えば、誰しもの中にある、
愛情という枠の中の____
『狂愛』の枷を解いてつけこむことで叶う異能。
ゆえに、精神操作系 判定をされており忌み嫌われている。
人の愛情をいいように操り、破滅……否、
自滅に追い込む。
「重要なのは、殺されたい人……というか
僕の異能をかけられた人にとって、愛する人ってところだ」
そう。
相手が 名も知らぬ一目惚れの人でも
妻でも夫でも
母でも父でも
兄弟でも姉妹でも
親友でも恋人でも……
かけられた人にとっての『いちばん』の人が殺しにくる。
殺す側の人にしてみれば いい迷惑だろう。
それも『込み』での異能効果なのだが……。
穏やかな見た目には全くと言っていいほど似合わない力だ
まるで冬の深夜の星空のごとく澄んだ
あるいは無垢な紺碧の瞳が
理性的な輝きはそのままに揺らぐ。
尻尾のようにふんわりと結われた
ミルクティー色の毛束が風に揺れる。
「……三島君、女性には困らないのだろう?
なら____」
「やめておけ太宰……愚問だろ、ンなこたァ…」
太宰が 何とはなしに言うものの
中也が言葉を切らせた
「そうだね。
愚問も愚問。」
すっと三島は その目線を、愛しそうに
己の腕の中に収まる 彼女へと移した。
「…好きな人、って言っていたね。
僕には、世界でただ一人
真綿さえいれば……」
それでいい。
彼女を深く愛していたがゆえに
彼女に殺されたいと願った結果が、これである。
苦く笑った三島に続き
「じゃあ次は私の恋路」と
太宰が語り始めた……。