第47章 Re:birth …II
「嗚呼……ただいまだ」
やっと真冬が笑みらしい笑みを浮かべ、私の方へと歩み寄る。
……一瞬、あり得ないにおいが鼻を掠めた気がした。
私や真冬ならば嗅ぎ慣れ、浴び慣れているにおい。
硝煙とは、銃から出るものだ。
けれど、私や真冬はその世界から袂を分かったはず。
「真冬」
「……先ほど、今回の件で来たのであろう武装組織と戦った」
「真冬!」
薄っすらとだけ香る、雨のような水気のにおいと煙のにおい。
私は立ち上がり、何の考えもなく真冬の細い手を引く。
そうしなければ
やっと引き戻した光の当たる道を、彼女は無言で退いてしまいそうな気がして。
久々に染みた硝煙が、生々しく過去の凄惨さを思い出させる。
真冬の黒い瞳が、私を見つめた。
「あれはポートマフィアさね」
「……いると言うのか」
真冬がうなずく。
「手段はある。
だけれど、こちらの人選はした方がいい。
––––向こうの戦力は凶悪だ」
矢ッ張りか。
中也がいるのなら三島君が居ないわけがない。
三島君がいるのなら中也が居ないわけがない。
「……近いうちに事は起きるよ。
騒ぎ立てれば、もっと早まる。
明日か明後日か、それくらいには何らかの変化があると思う」
かつて私と三島君は、
互いの頭脳戦が心地良いと思えるほどに似通い、優れ、精鋭されていた。
競い合うためのものじゃなくて
答え合わせでもするように、二人して頭を使った。
三島君とであれば、こちらが一歩も出向かずに
敵一個隊を崩壊させるなんて容易かった。
三島君の意見を、思考を、考えを、
私が汲み取るのが楽しかった。
……そんな彼が敵にいる。
「勝率は五分五分。
私と三島君の一騎討ちとくれば、ジリ貧になる」
そして最悪なことに–––––
そのジリ貧こそ、三島由紀夫という彼の手合いなのである。
『せいぜい上手く立ち回り、こちらは無傷で勝利する』。
ポートマフィアにいた時聞いた、彼の言葉だ。
今ほど彼の頭の中を見てみたいと思ったことはない。
黒と黒を混ぜ合わせても黒にしかならない。
翻って言えば、それは
黒は、たった一色で黒なのである。
黒は別の黒を必要としない。