第7章 好きになったもの。前編…芥川龍之介誕生日 3月1日記念
「……うーん」
静かに唸った三島が、自分の頬の怪我を
愛しそうになでる。
まるで、勲章だ、と言わんばかりに。
色鮮やかな、千紫万紅の花々が
露をはじいて 穏やかに揺れている。
松葉杖の身でありながら 毎日、この楽園の管理をしている三島の姿はとても脆いものに見えてくる。
彼の言った「大怪我」という言葉は その惨状を形容しきれていない。
「特A級危険異能者……は、特務課からのリストで
だいたい把握しているんだったかな」
「まあ、世界中にA級は散らばっているとは言え、数は少ないからね」
三島の言葉に太宰が返す。
そう。
三島の異能も、その区分に入る。
柔らかく微笑む三島の
頭部に巻かれた包帯に、頬にはガーゼ、左腕はギプスで痛々しく首から吊るされ
その首にも包帯が 幾重に巻きつけられていた。
いつもかがむように目下の花に水をやっているはものの、
右足もその機能が未だ不全であり
車いすを押しつけたくなるくらいだった。
いや、むしろ、どうしてその身で松葉杖を使っているのか責めたいくらいだ。
「愛する人に殺されることほど
幸福なことってないと思っているんだ」
それは、三島にすれば____だが……。
温室の宮中をそよぐ風は、花の香りに満ちている。
とても温かで、春の季節を永遠に閉じ込めたかのようだ。
「……ここは、夢の中みたいだよね」
白昼夢のように曖昧で、
出てしまえば 猥雑とした現実が待ち受ける。
「ふむ。
まあ、真綿に安息してもらうためだけに、僕が管理しているのさ。
たまに、いや、かなり頻繁にエリスが遊びにく来るかもだけれど、そこはそれ。」
にこりと微笑した三島が、
真綿に 近くに来るように言う。
彼の医療用ベッドの端に腰掛けた真綿を愛でる三島が
その華奢な腰を抱きしめ
されるがままの真綿は、手慣れたように
話の続きを促すだけだった。