第46章 Re:birth …I
「でも、いつしか
坂島は事象を反転させ、何もかもを逆さまにしてしまう
『さかしま』という忌み名を付けられた」
「……七つまでの子どもを、
神さまに『お返し』したからですか?」
なぜそれを、と老人が顔を上げた。
三島の手には、別の書物。
先に訪れていた二人組みが、借りなかったものだろう。
「……つまり、だ。
今回三百人も消えたのは…」
「……嗚呼…
向こうの敵は、何か大きな
『さかさま』にしてしまいたい事がある」
中也の言葉に三島がうぅんと唸った。
そしてきっと、逆さまにされれば不味いものだ。
三島の紺色の目は、中也を見つめていた。
「……よく、判らない」
「なんだか……もっと謎が深まってしまったよ」
「だろうな」
三島を抱えて夜闇に飛ぶ。
気分の悪いものを聞いた気がした。
七歳までの子ども…か。
「中也は、神を信じるかと聞いたね」
「あァ」
中也の肩にもたれて、夜風を浴びながら目を閉じる三島が急に切り出した。
人間の体温だ。
「もしも……
人間でも何でもなかったあるモノに
惚れてしまった人がいたとしよう。
彼は自分の痛覚、痛いというのをその人に譲渡した。
かくしてそのナニカ、あるモノは痛みを失ったとしよう。
……で、だ」
三島は続ける。
たとえ自分のことであっても、そうでなくても。
「人間になりたがった神さまがいたとする」
「……何だ、それ」
まあいいから。
三島は笑って遠くを見る。
「それの弱点は、『己の異能力が強力過ぎること』に尽きた」
「そりゃまあ、万能の無知こそ神の特権だろうよ」
「それは西洋の考え方」
頭が痛い。
中也がそうどこか思いながらも、
ビルの屋上に着地してまた異能力を展開する。
黄色い月の光に、紫の文字帯が光冠のように広がった。
「……つまり、何だ?」
「つまりさ……
七つまでは、とか言うけど、それは紛れもなくただ単の子どもに過ぎない。
神さまの落とし子という、
ただのその地の宗教的感覚なわけで」
三島は何が言いたいのか。
今までであれば、薄っすらとは判り得た。
今は……その目は、何を見ているのかが
本気で判らない…