第46章 Re:birth …I
「手前ェは、」
中也が三島を見ずに呟いた。
三島が振り向いたのが気配で感じ取れる。
お茶を淹れると案内される中で、中也は横を歩く三島に言った。
「……神っつーのを信じたりするか?」
「…子供はさ、七歳までは神さまのうちなんだって」
七つまでは神のうち––––
七五三というのも古くはそれに根付き、
七歳になるまでの子供は神さまに"お返し"することが許されていた。
中也はあまり自身の子供時代のことを覚えていないとはいえ、三島の小さい頃はそれなりに小耳に挟んだことがある。
ヒトの年齢でいう十五歳になるときに、三島は太宰と中也に出会った。
たしか首領とはもう七年の付き合いだというのも聞いた。
森さんが、先代のポートマフィア首領時代のときに、政府の檻の中で見初めた異能力者。
それが……三島由紀夫という、
人間ではないナニカだったと。
「坂島は……
文字通り、『さかさま』から来た言葉だ。
人の死さえも反転させる、奇跡の土地。
そんな中で人が三百人も消えたとなると……」
その存在はいなくなったのではなく、
元から存在しなかったということに逆転する。
(子どもの頃、か)
中也が帽子を押さえて階段を降りる。
「何からお聞かせしましょうか––––」
「そうですね……」
考える三島は、
きっと時間が有限でありながら、聞かなければいけないことの多さに
ほんの少し、迷っている。
「この街には、まだ神稚児の伝承はあるンですか」
「中也?」
いいから、と中也が続ける。
老人は少し眉を下げてうなずいた。
「あります。
七歳までは、神さまのうち。
もともと坂島という地名になる前は、
田神町という隣の県との
田圃を祀る穏やかな村だったんです」
老人は続ける。
「ほら、近くに永和町というのもありますでしょう。
古くは『永遠』のとわ、と掛けていたり……
七宝町だとて同じです」
七つになるまでの子どもは
神さまの落とし子。
宝だったのだと。
(田神……––––たがみ、……
嗚呼、『多神』か)
三島が独りでに納得し、頷く。