第7章 好きになったもの。前編…芥川龍之介誕生日 3月1日記念
「女性なら誰でも抱けるっていう男もいるしね」
にこりと和やかに微笑んだ三島だが
その紺碧の目が全く笑っていない。
ふわふわしているミルクティー色の髪が、温室の温かい風に揺れる。
「本命には誰しも一途であろうさ。
……うん、まあ、妾の事情を棚上げすることになろうが
そこはそれ。」
深夜の中に存在する、ひとかけらの真昼。
ベッドに座す三島が
「嗚呼…、ま、それはね」と苦笑した。
「そんな三島君は、好きな人いないのかい?」
太宰が何かを探るような口調で問うた。
太宰的には、敵戦力を把握しておきたいところなのだろう。
「嗚呼、いるとも」
あっさりと口にしたその言葉に
中也が目を剥く。
それもそうだろう。
何せこいつは三島由紀夫。
非常に紳士であり、その佇まいはまるで百合の花のような奴。
女性という女性には、まるで花を扱うが如く懇切丁寧に接する。
見掛け上はとても優しく、好青年に見られる。
というか実際見られている。
ちょっとだけマイペースでもあるが
対面するだけで張っていた気が緩むような
どんな教育をされればそこまで紳士になるのだと
本気で思わせるような奴だ。
「…手前ェ、自重しろよな……」
中也が呆れて三島に言う。
いつかこいつを狂愛した女に刺されそうだ。
今でさえ生命に危機を来たすような大怪我をしていると言うのに。
そんな中也の言葉に
三島がむむっとわざとっぽく顔をしかめた後、
「好きなものを好きだと言ってて何がわるい?」
と悪びれることなく言ってのける。
意地悪げに微笑んだ三島の様子に、
「人の気持ちも考えろってことだわ!」
と、中也がつい噛みつくように反駁した。
だが、中也の反駁に 三島が呆れたように眉を寄せる。
「……ふむ。 君はこの僕に人情理解を求めるのか。
そんなことしても無駄だって。
学びなよ、君は」
「ふざけんな!?」
三島は今でこそ 人間らしい振る舞いを
『それっぽく』しているのだが
元々、この男は、情や感傷に非常に希薄なのだ。
非道で、客観的。
すべては、この花のような男が保持する
『異能力』の影響だ。