第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念
「三島様!」
目を覚ました三島の耳に一番に届いたのは、そんな少女の声だった。
「三島幹部」と呼ぶようになる前の上橋が、
三島を呼称するときに使っていた言葉。
「……上橋」
見慣れた少女だった。
あの時、真綿と僕で折半して買い取った––––
もとい助けた少女。
太宰に最大限に怯えて、僕に笑顔を見せてくれる少女。
……まだ、笑顔がなくなる前の上橋菜穂子がそこにいた。
「良かった……です。
三島様が倒れられてから、二日が経ちました。
太宰様も起きています」
「そっか……」
四年後の上橋菜穂子が、僕に告げてくれた告白。
それをどう返したらいいのか、記憶を超越できる彼は半ば反則じみた方法で手に入れた。
失敗した四年後の三島自身が変えさせた。
改革は自分の手で起こさなければ意味がない。
笑顔が失われるまえの上橋菜穂子が、三島に近寄る。
「上橋」
「はっ、はい…!––––ひゃっ!?」
その小さな身体を、三島が引き寄せた。
抱きしめると言うよりは、抱擁というか、包み込むというか、とにかく軽い意味合いの方だけれど。
ともかく、上橋のもっと面白い反応を見たいのであれば、四年後あたりに同じことをしてみればいいだろう。
「ぁ……えと…そのっ…三島、さま」
「単純だ。君をたしかめたかった。」
嗚呼……本当だね、真綿。
単純だ。
単純だから、誤魔化せない。
何を?
自分を、だ。