第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念
「つまり?」
「……つまり、何?」
中也が藪から棒に三島にそう一言言えば、三島も不思議そうな顔で小首を傾げた。
そりゃまぁ、中也の第一声が主語もなく「つまり?」ではさすがの三島とて当意即妙とはいかない。
「コレだよ」
中也が三島の目の前に突き出したのは紙切れだった。
雑に切られた切れ端。
……よく見れば提出用の書類ではなかろうか。
そこにはオモテ面に『三島君へ』で、
中のメモは『つまり?』としか書かれていない。
ふざけとんのか。中也はそう思った。
あの日、太宰が何か書き置きを残しているだろうと中也が太宰の執務室に戻れば、置いてあったのだ。
矢ッ張り。
そう思いながらひらけば宛先は三島。
しかも中身は一言。
コレを三島に渡せとか、あるいは伝えろということだろう。
渡される側の三島が倒れたのだから、宛先を三島にするのはおかしい。
だから、中也は彼に言った。
菜穂子は首領を呼びに席を外している。
人払いの手際が良すぎて、まるで中也がここに訪れるのを見ていたみたいだ。
「つまり?」
「つまり……
上橋を「そっか」で、振ったも同然の言葉で返した僕は、その時点で
四年前から上橋を好きだった……って…こと……?」
言っている本人がバグっているじゃねェか。
中也が手近な椅子に座って言う。
「三島は上橋に対して紛いなりにも恋愛感情じみたものを、四年もの長い間ずっと持っていた。
……のにも拘らず、振ったッてことか。」
「で、その『振った』事実が覆されようとしているんだよ」
そうか。
そう言うことだったんだ……
三島の中にすとんと落ちた、『愛とは何か』。
「……四年間……僕はずっと、上橋が好きだったってこと……?」
「正確に言うンなら、笑顔がなくなる前のあいつが、だけどな。」