第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念
「……人間同士で争うのは、あまり好きじゃないんだ。
早めに終わらせよう」
「承知した」
少年の言葉に言葉だけ返し、少女が斧––––
の、棍の部分で大人たちを薙ぐ。
突柄という太刀の技ではあるが、リーチがあれば何だっていい。
「貴様……えと、そなた……んん、
何て呼べば良いか判らない」
「あー……由紀でいいよ。…きみは?」
少年、由紀の言葉に少女が肩を震わせた。
「……?」
どうして、そんな反応をするのだろう。
なんで、そんな顔で振り向くのだろう。
「……妾は、暗殺者…故な…
名は、ない」
嗚呼。
単純かつ、なんて残酷な理由なのだろう。
そんな顔をしたのは、すべては
この女の子に決まった呼称がないからだ。
であれば。
「なら、今のあるじには何て呼ばれているの?」
「……暗殺者、と」
「え」
少女に蹴られた大人が船の縁にぶつかり、気を失った。
……すごい力。
少女の脚力が元から強いとはいえど、
大人がこうも紙切れみたいに吹き飛ぶとは。
「暗殺者の意味だ。」
「案外そのまま!?」
由紀の文字帯に突っ込んだ大人が、ばたんと倒れ伏した。
背中の向こうでは、少女が振りかぶった棍が
痛そうな音を立てて相手の首筋に当たり倒れる。
「一時の戦いに、趣向を凝らしていられるか」
「まあね」
由紀が肩をすくめた。
さほど興味というか、少女の呼称になど関心はない。
関心があるのは少女の本質自体で、
それをどのような言葉が飾ろうとも関係ない。
「やっと一割」
「あと九割……だねえ…」