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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念






「もしも……」


着物を纏った女の子が静かな声音で、呟いた。

僕に言っているのか言っていないのか、小さく。


少年は顔をあげる。




「陸地の見えない大海原に、二隻の船がある。

途中二隻が立ち寄った島で、流行り病を持ち帰ってきた乗組員がいた。

二隻中、一隻には100人が乗っていた。
もう一隻にはたった一人が乗っていた。

100人はすでに瀕死状態である。
一人は軽度の病状で済んでいる。

船同士をつなぐことは出来ない。」



女の子が言う。

一隻助けたらもう片方は沈むのなら、
どちらを助けるべきか迷ったと。



そして続けて女の子が言う。


「……して、妾(わたし)はこちらを選んだ」




真昼の月に掲げられたスカルペス


付着した血痕からして、この女の子の本命は
あっちの船に移ることだろう。




「それが間違いではなかったと……

証明してみせるが良い」



不敵に笑った女の子は、
少女らしさなんて微塵もなかった。


そんなものはすべて、亡き子供部屋にでも置いてきたかのように。



頭が痛い。
少年の頭がひどく痛んだ。

何故だろう。


記憶を超越できるのは少年の方なのに、
自分の脳が金切り声の悲鳴をあげている。



この女の子は何かが違うと。


「きみ……誰だい…?」




もはや自分とは別世界の存在のような、

影と太陽みたいな、
右と左みたいな、

決して交わることのない

ただ平行線にいるような存在。



そう自分の本能よりも優った直感が告げて来る。




「妾は鍵で……
貴様は鍵穴、とでも言えばいいかや。

ふたつの発生過程は途中までは同じだが、大きくズレる一時点がある。


故に……妾は貴様に、貴様は妾に

どうしようもなく惹かれるのさね」



頭が痛い。

女の子が何を言っているのか、異国の言葉かと聞き紛うくらいに判らない。




幼い少年は、ただその女の子を見つめていた。




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