第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念
遠い遠い、夢をみた。
幼くて小さな彼がいる。
マフィアに連れて来られる前の少年が。
目を開けると、どうやら自分は
後手に縛られているらしかった。
床が不規則に揺れて、潮のにおいがする。
つまり……海上。
幼い少年は慌てず騒がず目をあけて、ゆっくり辺りを見回した。
ミルクティー色をした、絹漉しのような髪に
夜中の空を凝縮したような穏やかな双眸。
そう、どこからどうみても
綺麗としか言いようがない。
……でも、それは……
生き物に感じるようなものではなく、
どちらかというと、ショーケースの中に置かれたガラス細工みたいな、無機質に感じる綺麗さだ。
「……ひとりぼっち…かな」
確か、くだらない理由で自分は誘拐された。
綺麗なものに手を出したくなるのは人間のサガだし、そこら辺、この少年は熟知していた。
……していたのだが、まさかこんな幼い子どもに本気になるだなんて。
どうしよう。
手は縛られて椅子に固定され、
多分杭でも刺されているのだろう。
辺り一面海であれば、多分沖。
日は沈んでいないし、体感的に一日も経過していない。
そんな早いスピードで自分を島流ししたのであれば、良ければ元町あたりだろう。
……悪ければ横須賀のだいぶ東。
「とにかく、この拘束を解かなきゃ……」
この少年に欠けているものを挙げるとすれば、
この場でどうしたら良いのかではなく
先に結果を考えちゃったことだろうか。
つまり、これは人手がないと無理。
どうしようもない。
操船技術は知らないし、否、この少年がもう少し大人だったら、一応何だって出来たのだろう。
でも、少年は少年だ。
「船––––」
ふと彼の口から、そんな言葉が漏れた。
船。
彼の目線の先、一隻の大きな船が遠くにあった。