第45章 泡沫の花 後半…三島由紀夫誕生日1月10日記念
捕虜が抵抗する前に気絶させる。
カクンと力を失ったように、すんとも言わなくなった。
「運びやすくなった?」
「あァ……」
「じゃ、森さんに報告お願いね」
狙われたのは太宰なのだから
太宰が来るべきだが……
生憎、中也の方が身分的に下なので仕方ない。
ポートマフィアでは、上の命令には絶対に従うべし。
ばたん、と太宰の執務室のドアが閉められる。
「……いやぁ…幹部というのも大変だ」
「知ってる?太宰。
僕らの首は、その界隈じゃかなり高いらしいね」
「げえ〜……菜穂子より?」
かくいう彼女……少女、上橋菜穂子は20億だった。
それを三島と真綿が折半して、その場で首輪の鍵を買い取ったのだ。
「さあ、ねえ。
……闇市であの価格は別段おかしくないよ。
つまり運営側は、上橋が異能者だと知らなかった。」
「否。違うでしょ?
……上橋菜穂子は、隠してる。
自分に異能があることを。」
二人はゲェム機を動かしながらも、そんな会話を進めた。
一介の身分では拝聴さえ叶わない、五大幹部の言葉の連続。
それ以上言ってはいけない、と二人の本能は告げて来る。
禁止事項であるからと。
三島君は何故、そんな子を買ったんだろう。
だって君には、恋人じゃないにしろ真綿がいるし、彼女がいなくたって女の人を選び放題だ。
【仮面の告白】のせいで、向こうから言い寄ってくるのだから。
「……太、ざ」
「ん?なに?…って、三島君……、
三島君っ!?ねえ!」
そこでふと、思い返した。
洒脱とした理知的な人間のなり損ない。
それが三島君というものなのだと。
感情を食べなければ彼自身に自我はなく、
ある日突然
電池切れのように息をしなくなる。
ポートマフィアというここにいたって、
こういう微かな平穏はいつか…
自分の手の内で壊れていくのにね。
「三島君!」