第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念
ノックが三度、同じリズムで軽く叩かれた。
「はぁい?だれかしら?
リンタロウ?ユキ?」
積み木のお城をてっぺんからなし崩して、
エリスが振り向き、問う。
「入っても良いかな」
「ユキ!」
甘くやさしい、少年の声音。
聞くものを安心させるかのような、
聞き心地の良い温度。
広い女の子のお部屋には、大きなクマのぬいぐるみがその圧倒的存在感を放っている。
話し相手はこの子だけねとエリスが思っていたところに、彼は逃げてきたのだった。
「いいわ!入って」
自然とエリスの表情もほころび、立ち上がってドアを開ける。
ちょっぴり寂しかったときに
満を持して登場した三島は、ずるい。
かぜを引いて一人ぼっちでいる家の中で、
こぼれた涙をぬぐわれたみたいに、安心するの。
彼がいるだけで、心が満たされる気がしてくるのだ。
入ってと言ったのはエリスだったのに、
困った顔で立っていた少年の方へ
「どーん!」と腕の中に吸い込まれるようにエリスが駆け寄った。
「おっと……
なに、寂しい思いをさせちゃったかな?」
その金色の髪を三島がなでれば、エリス嬢の碧眼がこちらを見上げた。
「ええ、ひとりぽっちの人形遊びはもうたくさん。
ね、それより、どうしたのかしら?ユキ。
リンタロウがユキの方へ行ったと思ってたけど」
「ああ……うん、会ったよ。
そこである人を紹介されたんだけど…」
三島が、一目見るだけで苦い笑みを浮かべそうな彼を思い出す。
あの彼……「太宰治」と森さんは言っていた。
太宰治。
あの彼は、人の上に立つ者の目をしていた。
きっと森さんがポートマフィアの首領の位を棄却したとき……
首領候補として召し上げられるのはあの彼だろう。
三島はそんな予想を立てていた。
「……ユキ?」
「でも僕が仕えてるのは、ほら、森さんだから。
今の僕には然して関係ないよね」
たとえ太宰の下に就こうとも、三島の中の王は変わらない。