第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念
「うっわァ……」
中也と三島の第一声は同じもの。
溢れるオーラは暗黒鍋。
人を検分し、見定め、切り捨てることも厭わない空気。
まさしく、暴虐王。
否、三島にとって『王様』は森さんであるからして、太宰はさしずめ暴虐公。
若干青い顔をし、冷や汗ぎみの三島は、
こういう奴が本能的に無理なのだろう。
三島にとっての生存本能が、危険をアラートしたのだ。
触れた瞬間に
雷にでも打たれたかのように、ぷちっと存在がつまみ出されてしまいそうな––––
そんな表現がいいか。
「触らぬ神に祟りなしってね。退散退散〜」
「はぁ!?」
さっさと三島は逃げ出した。
そして首領と太宰に二言三言言ってから、俺と紅葉姐さんをそこに置いて、首領執務室に逃げ込む。
……あ、そっちにゃエリス嬢がいるからか。
だから首領も三島を咎めなかったンだろう。
「済まないね、太宰君。
彼は三島由紀夫。
とても良い才能と頭脳を持っているのだが、なにぶん臆病なところもああして存在しているんだ。
……ただまあ、君がそんな顔をしていたら
さしもの三島君とて察するよね」
太宰がこんな不機嫌そうな顔をしているのには理由があった。
三島や中也はもちろん関係ないし、有り体に言えば個人的なものだったのだが。
「だからとは言え––––
異能無効化の私に、あのような暴力一辺倒の洗礼は引きますね」
「異能者が異能力だけを頼りにしてはいけないってことだよ。
まあ良いじゃないか、結局君が返り討ちにしたんだから」
どうやら首領のところの部下が、太宰に力試ししたらしかったのだ。
会話から察するに、銃撃や殴打が飛び交ったのだろう。
だから太宰は不機嫌だった。