第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念
「というわけで、改めまして。僕は三島由紀夫。
君よりふたつ年上のおにいさんだよ」
「大して変わんねェだろ……」
ふふんと笑った三島に、俺がそう言えば
まあねと大人の笑みで返された。
子どものくせに。
驚いたように丸くなっていた双眸を、すぐに和らげて細めた。
なにに驚いたのか?なンてべつに興味ねェからな。
こちらを検分するようにしていた三島が
「さては君、好きな人いないね?」なんて失礼なことを言ッてくる。
「ンでだよ」
「僕の余剰異能が効かなかった」
夢もしかり。
三島の、本人すら見えない異能者を
包み、また発散されて纏わりつくもの。
余剰異能力の粒子、あるいは碧銀の霧や雨粒。
きっと俺や紅葉姐さんの身体からも、余剰異能力というのは漏れ出ているンだろう。
うつわに入りきらずに溢れる水。
たとえるのなら、自分が入ったことで湯船から押し流されたお湯のような感じ。
しかし三島は特A級なんたらかんたらで、その余剰異能さえ脅威的。
余りモンだけで作り出しているのが、この花畑のゆりかごだから。
「そういえば、森さんも誰か連れていたなあ。
濡羽色をした蓬髪の、秀麗な貌をした男の子。
あの子、誰だっ––––……」
だろう、と三島が言い切るまえに。
「いたいた、紅葉君、中也君、三島君」
さく、と足元の毛足の長い草はらを踏んで、首領……森鴎外と
音に聞こえた最少年幹部候補の
太宰治がいた。
それはそれは真っ黒い眼を、俺と三島に向けて。