第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念
ひょいと覗き込む瞳
見つめる青い目は俺のものだった…
三寸先とは言ったもの。
その距離10センチくらいなモンで、クソ近い。
「おはよう」
俺をみて微笑む顔は、いかにも女が好きそうな雰囲気だった。
ただ俺には響かなかった。
それだけだ。
その甘いマスクも、甘い声も。
たったそれだけが、
後から聞きゃァ三島の中では大事件だッたらしいけど。
「近ェ」
「––––……」
「オイ」
三島の、驚いたように丸くなった目。
ともかくその時は、目の前にあった、やつの端正な顔を不審そうに見上げただけだ。
「由紀と中也……汝(うぬ)等いつまで見つめ合ってるか」
紅葉の高みの……否、遠見の見物の目線に
「––––っ!」
「あっ、ごめん姐さん」
何もなかったかのように三島が身体を離したのとは反対に、中也がバッとすごい勢いで離れる。
そして、覚めきった意識とその景色に、今気付いたように見回した。
「夢と現実、あまり変わらないだろ?」
「あァ……」
翻った黒い外套に、ひらりと眼前を過ぎった真っ白いレース
三島が手を差し伸べるかたわらで、紅葉姐さんが
我が子か、あるいは弟たちを見るかのような目でこちらを傍観していた。
あれは絶対……楽しんでやがる……