第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念
「こんにちは。
君が、三島由紀夫君で合ってるかい?」
「––––……」
子どもの体躯では大きすぎて余りまくる、革張りの一人用ソファーに
ひとりの少年が行儀よく座っていた。
座らされていたとも言うが。
その美しい紺色の瞳は、人間じみたものではない。
氷肌玉骨という姿かたちを表す言葉があるように、彼はとても揃えられ、まとまっていた。
すべてが。
ただ、『少年』と脳内で自然と変換されたあたり彼は勿論 男性であり、
およそその優しげに作られた貌がそんな熟語を想起させたのだろう。
「あれ、言語機能備わっているはずなのだけれど……
もしかして、夢の中じゃないと声帯は使えない、とかかな」
若い頃の森はまだポートマフィアの首領ではない。
そしてまだ、幹部でもなかった。
これはそんな、7年も8年も前の、『森邸』でのこと。
陶人形のような三島由紀夫の頬に手を滑らせ、反応を確かめる。
がしかし、彼は頭上に『?』とでも浮かぶかのように首をわずかに傾いだだけだった。
「君は幼い頃、見目麗し過ぎて誘拐されたことがあるとか聞いたのだけれど、これはそんな一端ではないからね」
エリスちゃんと並べたら、間違いなく美男美女という言葉の具現化になるだろう。
「私が、特A級の異能力者として政府の牢檻に大事に大事に閉ざされていた君を
何億も掛けて落としたのには、勿論理由があるんだ」
武芸百般の筋骨隆々とした益荒男よりも
自らの思いのままにできる手弱女よりも
特A級危険異能力者リストを見た瞬間。
序列をつけられたその異能力者の
群を抜いて物騒だったりする異能。
一番に目に付いた。
『愛する者に殺される異能力』––––。