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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第44章 泡沫の花 前編…与謝野晶子誕生日12月7日記念





「ワクチンは最初に打っておいて、体内で耐性を作っておくものを言う。
でも、僕が言った手段だと」


由紀の言葉の続きが、自ずと判った。




「それは、先手じゃァなくて後手に回る……ッてことか」

「僕の得意分野だ」


由紀が無邪気な子どものように微笑んだ。



学校の先生のような雰囲気から一転、同年代の彼の空気になる。

まあ、どちらにせよ周りは取り込まれる側だが。




「湿っぽい話をしちゃったね。
久しぶりに会えたのに」


由紀の言葉に、別にいいよと言ってから
妾はぐるりと花畑を見回した。


現実では、この夢の外では、今は何時なのだろう。



とかそんな事を思っていたら、由紀が「嗚呼、そうだ」と緩い声を出した。


「代わりに、晶が何か僕に聞きたいことがあったら聞いてもいいよ。
僕としては何も聞かないのもいいし」


「何でも?」

「何でも。」

「本当に?」

「夢オチがお望みかい?」

にっこり、どこか冷静でいて理性的な笑みだけれど、きっと彼の言う『部下』やらは
こんな笑みをみたら喉を引き攣らせるのだろう。


でも。

自分について多くを語らない、または聞くことを禁止としたこの花畑の中で
由紀から持ちかけてくれた提案だ。



初めてだった。


何でもいいなどと。



「何でもは範囲が広いねェ」

「まあ、常識範囲内でね。」

デシャヴだった。




そしてふと、思いついた。


彼の不思議な点を挙げるとすれば……


「じゃァ––––……由紀の、その怪我のこと聞きたいッて言ったら?」

「僕の予想通りだ」



一目見た時からずっと目に焼き付いて離れない。

ミルクティー色の柔らかな髪に、紺碧の双眸。
人間とは一線を画しているかのような、作り物めいた美しい相貌。

鷹揚な物腰。


見る者の心を奪い、また自然の摂理がごとく
心を惹きつけるように出来ている。


『そんな風に出来ている』。




「この怪我はね、僕より一つ年下の……
すでに夭逝した暗殺者にされたんだよ。

…もしかしたら彼女にはまだ
予期しなかった未来があるのかも、だけれど。」



由紀はどこか遠くをみるかのような……

今から20年も過去の"今"を超越して俯瞰しているかのような目をしていた。




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