第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「だから……真綿はさ、僕も守ってくれるんだよね?」
「それはそうさな。
なにを当たり前のことを……」
つい先ほど、真綿に師事すると提案したばかりなのに。
真綿の、長い髪がふわりと手の内で揺蕩う。
「乱歩?なにを考えた」
細められた真綿の瞳は真意を探りにくる。
僕はその目を見ることしか出来なかった。
何か言葉を重ねなければと思った心ごと射竦められる。
数瞬のあと、真綿が小さく吐息した。
「嗚呼、そういうことか。
……乱歩。
確かに、妾は福沢殿に仕えているが、それは乱歩が妾にそう仕えてほしいと言ったまで。」
ただ……
「妾を拾ったのは乱歩だ。
それをまかり違えぬよう」
もしも、福沢殿と乱歩、ふたりに差し迫った危険があったとして。
その時妾が未然に防ぐために優先するのは
確かに福沢殿でございましょう……
そう、ただ––––
「乱歩は、充分 妾にとって特別な存在だから……」
「……あ、」
すっと右手が真綿の方へと引き寄せられてゆく。
そしてその乱歩の手に祈るように、恭しく頭を垂れ真綿が呟いた。
「だから」
そこにあるのは尊敬と、
親愛という表現するにはもっと深い、丁寧な思慕。
その目に映った情愛に
乱歩は腹底から何か熱いものが込み上げてくるような、沸騰するかのような…そんなものを抱いた。
「この身この刃はあるじ殿の元に在れど
この心は貴方のために」
なでられる事が好きだった。
褒められる事が好きだった。
でも、周りの大人は僕より愚かで僕より何も知らなくて。
そんな時に福沢さんに出会った。
「乱歩が望む限りは
この心は貴方のものであり続けましょう」
父上も母上も、もういないけれど
上京して家族を見つけられたんだって……
「だったら、」
僕は無意識のうちに言っていた。
僕の望む限りなんだったら。
「避けられない死が、分かつまで」
「なんだ、祝言か?ふふ」
恭しく取っていた乱歩の手と
真綿の手の指を交わす。
「ならば乱歩、約束しよう」
「約束」
「嗚呼……。」
指を重ねる。
伝染する体温。
––––死が二人を分かつまで––––
「最後のときまでこの真綿を共に」