第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「それにしても……福沢さん、遅いね」
「叱られるのが遅くなるだけ、良いものなのではないのかや?」
今しがたまで熱くまぐわっていたというのに。
肩をすくめるようにして息を吐いた。
真綿が乱歩の首元に腕を回し、ネクタイを通す。
「そこはそれ。
福沢さんは……大切な人だから」
「嗚呼……」
目を伏せ、そして顔を上げ乱歩の翡翠を見つめる。
「最近は、随分と忙しそうにしていた。
頭数には入れても良いと言ったものの、あるじ殿はなかなか妾に外回りをさせてはくれないから……」
「ん?そりゃね。
真綿、怪我治っていないしさ?
内番任せてから、効率は目に見えて変わったよ?」
そう……福沢と乱歩が外に駆り出されているうちに真綿が済ませておいてくれる家事は
性別に偏りのあった福沢邸にとってとても都合が良かった。
もう捨てたとはいえ
暗殺者として冠位を賜った身である真綿は、家事など朝ごはん前なのだから。
「すごく助かっているんだ。
福沢さんだって、身に沁みているはずだよ。」
「あるじ殿のお手を煩わせないのは、従者として当然でございましょう、と思うけれど」
真綿のわずかな笑みに、乱歩が一瞬だけ固まった。
「僕が……––––」
そして何かを呟き、目が伏せった。
彼女を拾った日のことが過ぎる。
「乱歩、どうしたのさね」
「んーん。それにしても、そう。
最近は忙しくってね……」
彼女を拾い、彼女ではなくなった彼女をちゃんと埋葬してから
名をつけて、こうやって駒を進めたのは、
(僕、なんだけどね……)