第43章 月は綺麗ですか…江戸川乱歩誕生日10月21日記念
「乱歩?」
「血」
その翡翠の瞳がきゅっと細められる。
眼鏡を掛けていない瞳の瞳孔は真綿の身体を見ていた。
「血の匂いがする……ほんのちょっと、微かにだけど。」
傷開いてない?と乱歩が真綿の手を引いた。
こうして先程から無遠慮に連れ回しているからこそなのだと、その時はまだ知らなかったらしい。
「乱歩が気付くくらいさね。
妾も今判った」
「痛くないの…?」
「仕事柄痛みには慣れている」
そういうことじゃない!と大きな声を出してしまいそうになったが、すんでのところで堪えた。
慣れちゃだめなものって、沢山あるよ。
痛いことを痛いって言えない不遇さは、見ていられない。
「真綿はさ……もう僕たちの家族なんだから…身体、もっと大事にしなよ」
「かぞく」
「そう、家族でしょ?もう」
面食らったように真綿の言葉が詰まった気がした。
そんなにおかしなこと、言った覚えないんだけど……?
「ねえ、真綿」
その黒瞳をゆっくり見据えて
中に蟠る澱みを濾すが如くにっこりと笑いかけた。
「まさか、家族だなんて思ってなかった〜なんて言わないよね?」
僕の言葉に
真綿のぴくりとその華奢な肩が揺らいだ。
ありゃ、珍しい……
なんて断言出来るほど気を許してはくれていないみたいだけど
図星を包み隠さず教えてくれるなんて。