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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第6章 花園紳士


カツン、カツン、とポートマフィアの本部高層ビル––––


そこには靴音とも取れぬ乾いた小さな音が鳴っていた。




音の間隔的には、人間の歩みのペースだ。

それは、松葉杖の音だった。




カツン、カツンとそれはゆっくり鳴る。



美少年––––否、少年という域を脱し

その彼の穏やかそうな性格が、全面に、歩調に、雰囲気に滲み出ていた。




カツン、カツン。


規則的に進む音。



「っと––––」



優しいテノールが、少し慌てたように唇から紡がれた。

ぐらりとその体勢が崩れる。


横に松葉杖がずれてしまったらしく、前方へと倒れそうになる。





「……大丈夫か、由紀。妾はここにいる」


しかしその身体は、倒れることなく、余裕に支えが入った。





「…あ、真綿…」


彼の羽織ってた外套がひらめいている。



その広くなった外套の袖にはささやかな和柄が彩られ

どことなく……自分のそばにいる、真綿の着物の柄を なぞっているようにも思える。



外套に少しあしらわれた精緻なレースの意匠は、優しげな彼にはよく似合っていた。



「––––嘘、すごい偶然……あれ? ずっとそばにいてくれた?」


彼女に会った途端、彼の表情がほころんだ。




まるで『彼女』に会えた彼氏のように。

ずっと逢えていない織姫と出会えたように。

ずっとずっと切望した人に、会合できたように。





「良かった、すれ違わなくて……」



彼がにこと笑った。

ふわふわとしたミルクティー色の髪が、緩めに結われている。


しっぽのように毛足の長い、ひと束の髪。




彼の首には包帯がぐるぐると凄惨に巻かれていたが、

黒のタートルネックが、その異様さを覆い隠していた。




「……森殿の執務室に?」

「そうだよ」



真綿が端的に聞き、彼もまた一言で返した。

この二人の会話に冷たさはない。




「妾も行こう」


彼の腕を自分の腰に回させて、ゆっくりと歩く。



「…ふむん、抱きあげてしまっても良いんだがな。

そちらの方が早いかもしれない」


「あはは、えっと、ビジュアル的には、ちょっとね。」




真綿に抱き上げられたいのではなく、いつかずっと未来で。

この大怪我が治ったなら。



自分が、と望んでいた。
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